朝鮮戦争と中東戦、ベトナム戦等を教訓にして樹立された短期速戦速決戦略は、現代戦の普遍化した特徴であるが、米軍の軍事的能力と大韓民国の人的・物的潜在力及び現在の対峙状況と韓米同盟関係、連合防衛態勢等を勘案するとき、「革命と解放」を政権目標にする北朝鮮としては選択の余地がない唯一の対南軍事戦略であるといえる。

　北朝鮮は、70年代中盤まで在来式兵器と装備を中心に質よりは量を主とする戦力増強を持続してきたが、短期速戦速決の対南軍事戦略樹立以後から前後方同時攻撃能力と高速縦深攻撃能力、先制奇襲打撃能力の向上を一貫することによって、80年代末、既に軍事力の前進配置と機械化軍団の編成、大規模特殊部隊の確保と長距離砲追加前進配置等、戦時動員態勢を完了したものと判断される（注１）。

　先制奇襲戦略は、正規軍による大規模先制奇襲攻撃から非正規軍である武装特攻部隊の迂回奇襲攻撃に渡るまで多様に展開される概念である。特に、軍事潜在力面において劣勢な北朝鮮は、先制奇襲戦略を通して、北朝鮮全体人口とほぼ同じで、北朝鮮のGNPの数倍とされる京仁地域を早期奪取することを企図するものである。現在、北朝鮮軍の攻撃・機動装備の集中及び前進配置動向等を考慮してみると、北朝鮮は、先制奇襲戦略を持続的に追求するものとみられる。

　短期決戦乃至電撃戦形式の速戦速決戦略は、俗に「速度戦」として別称される。北朝鮮は、このために機械化・機動化・軽量化された戦力を確保し、改良型スカッド・ミサイルの量産を始めとする地上軍及び空軍の火力増強、高速上陸艇及び火力支援艇増強等、速戦速決に必要な攻撃型兵器体系の獲得と維持に全力を尽くしている。北朝鮮が速戦速決戦略を追求するのは、韓国の心臓地帯である京仁地域が戦略的に重要であり、休戦線と近いためである。特に、イスラエルとアラブ間の戦争、フォークランド戦争及び湾岸戦等は、北朝鮮に速戦速決戦略の許容性を示唆する実例となった。

　配合戦略とは、毛沢東の遊撃戦略とソ連の軍事戦略を結合し、朝鮮半島の実状に合わせたいわゆる主体的戦略であり、大規模の正規軍と非正規軍である遊撃戦を配合し、「相手をあらゆるところから攻撃する前線のない戦争」として、韓国全域を同時戦場化することが、その核心内容である（注２）。これは、前線に相手側の主力軍を膠着させておき、後方では、人民抗争を誘発させ、全面攻勢を取るというものである。

　1970年末頃、金日成は、坑道陣地完成指示に引き続き、1971年9月には、非武装地帯を貫通する「統一大通路」（トンネル）作業を命令したが、その理由は、南ベトナム敗亡事例のようにトンネル浸透と地下党勢力の跋扈を連係させようとするものと推定される（注３）。

　一方、金日成は、第5次党大会において行われた事業総化報告において「国防力強化」問題と関連して、「我が国は、山と江、河川が多く、海岸線が長い国である。我が国のこのような地形条件を上手く利用し、山岳戦と夜間戦闘を巧みにして、大部隊作戦、正規軍と遊撃戦を正しく配合すれば、たとえ軍事技術を爪まで武装した敵であっても、いくらでも撃滅できるだろう。我が国での過去の祖国解放戦争の経験がこれを証明しており、今日、ベトナム戦争での経験もまたこれを証明している。」と強調したことがある（注４）。

注２：1972年4月19日付「労働新聞」は、『金日成軍事選集第1巻出版に際して』という論説において、「遊撃戦戦法と現代戦法を配合し、遊撃隊の活動と全人民的抗争を結合することは、敵を至るところから攻撃して消滅させ、祖国の地を完全に解放できるようにする卓越した戦略戦術的方針」と明らかにしている。

注３：ソ・ウォンシク、『北韓戦略思想新論』、ハンウォン、1990、pp.102〜109

注４：『金日成著作集25』、p294、1966.10.5、党代表者会議金日成演説

最終更新日：2003/06/04